よくあることなんだけど

  • 伊藤芳朗弁護士を懲戒処分 共同通信)』

オウム事件で有名な伊藤芳朗弁護士が、テレビ番組への制作協力で職権を濫用。戸籍謄本などを不正取得したことで懲戒処分(業務停止)になった。
「戸籍謄本などを取得し、テレビ局から約5000−3万円を受け取った」
戸籍で3万円なら相場通りの値段。そんな“相場”があるくらい、ワイドショーや週刊誌ではあたりまえの「取材」方法なわけで、突然誰かが刺されるのはかえって不自然。同業者か他局の恨みを買った?

他人の戸籍や住民票を、正当な理由がなくとったりするのはもちろん違法。何のためにそんなことを? という理由は、伊藤氏のコメントがさらっと説明してくれている。
「番組制作に誤りがないよう、弁護士として関与した一環であり、職務上必要な行為だった」
ここでいう「誤り」っていうのは、裏づけがとれていない内容を報道してしまうこと。はっきり言ってしまえば名誉毀損などで訴えられたときに「裁判で負けるような内容」を出してしまうことだ。
例えば有名人が結婚したとして、本当に入籍してるのかどうか調べたり、結婚相手が一般人だったときに、それがどこの誰か調べるために戸籍や住民票をとるのはよくある話。もっと単純なのだと、現住所や過去の住所を調べるのにも使ったりする。
どんなに違法な手段で入手した情報でも、出してしまえばマスコミの勝ち。なにしろ「取材ソースの秘匿」は“報道”では不可侵の大原則。情報をどうやって手に入れたかよりも、事実かどうかの方が重要になる。
つまり、伊藤氏はテレビ局の利益のためにしかうごいていないわけで、それが「職務上必要」っていう説明は「ペパーダイン級」の言い逃れ。
そうやって戸籍みたいなものをつっついてしまったら、例えば「ある女性タレントの息子は出生日がどうやっても計算が合わない(誰の子だ?)」みたいな話とか「生い立ちの美談が一時話題になったスポーツ選手の両親は、実は結婚していなかった」なんてことが明け透けになったりする(あと、取材とは関係ないエピソードが出てきたりすることもある。戸籍がないとか、ものすご〜くサバをよんでるとか)。
そして、そういったことがニュースにならなかったのは、そのエピソードに商品性が無いと判断されただけの話で、取材手段が違法か合法かは全く関係ない。

こういう「アルバイト」をするのは主に行政書士なんだけど、3万円というのは東京から電車で行ける範囲の市町村に行ったときの値段。請求先が遠隔地だと倍になったりする(“裏”ネットワークを通じて地方の行政書士に下請けに出すので)。
行政書士を扱った「カバチタレ講談社「モーニング」連載中)」にこんなエピソードは絶対に出ないよね、同じ講談社に「週刊現代」がある限り。

芸能人じゃなくてよかった……なんて思うわけだけど、これが全部有名税っていうのなら、たのまれてもなりたくないよなあ。

弁護士がワイドショー的な取材で活躍する場面というと、「離婚」スキャンダルの場合もある。
有名人が離婚しそうになったとして、「○○さんに近い関係者の話」みたいなソースでスクープが出てきたら、そのネタ元は「本人から依頼を受けている弁護士」だったりする。
もちろんどこまでしゃべるかは弁護士本人のサジ加減にしても「離婚調停が始まる」こと自体がニュースになる場合もあるんだから、それで充分。「職業倫理<目先のカネ」なんていう弁護士が実際にいるんだから困っちゃう。

あと、不動産や会社の登記や車のナンバーは誰でも印紙代だけで請求できるから、日本の法律が守ってるプライバシーっていうのはなんとも穴だらけ。
一般庶民が土地や建物、会社を所有することや、車を乗り回すことを想定していなかった大昔の社会認識で作られた法律を、いまだに後生大事にしているから、ってことなんだろうか。