古古米の耐えられない臭さ

ここのところあたたかい日が続いているし、梅の花が開いてからもうずいぶんたった。今年は桜も早いんだろうか。
なんて春らしい日が来てるくらいだから、もうすっかり忘れそうになっている……去年の冷夏を。
冷夏というとイコール農作物の不作。あの米騒動がまだ記憶に残っているはずだけど、このとおり世の中は平和そのもの。誰も心配していないみたいにのんびりしている。
一つには、あの米騒動の前にあった野菜の暴騰がなかったことで、「今年は大丈夫そうだな」なんて印象があるからかもしれない。実際、米がなくなる前、冬になるとレタス500円(!)みたいなとんでもないことになって、何を食べたらいいんだ? みたいな毎日だった。

この冬は全くそんなことはなかった……本当に?
安い野菜は「アメリカ産のブロッコリー」だったり「メキシコ産のアスパラ」だったりしませんか?
去年の冷夏で、日本の農作物は深刻なダメージを受けてます。そう、米も。

  • 以下、近所の米屋で聞いた話。
    • 2003年は1993年に匹敵するほどの不作。
    • この不作の影響で、2002年産の米(古米)はもう市場からなくなってしまった。
    • 2003年産米の供給は、今年5月くらいまでが限界。新米がとれるまでは、ブレンドするしかない(抱き合わせ販売は法で禁じられているので)。
    • まぜる米は古古米以前のもの(おそらくは1999〜2001くらいのもの)

「じゃあ平成米騒動のときみたいに緊急輸入とか?」
「それは大丈夫です。この前のときと違って今は備蓄米がありますから、“米”がなくなる、ってことはないですよ」
「全然騒ぎになってないですよね?」
「そんなこと言ったらまたパニックになっちゃいますからね。いつも入れてる福島や新潟の米の他に、北海道とか宮城に行ってやっとこれだけ集めてきたけれど、もうすぐ5キロのうち1キロとか2キロは古いのを混ぜないと、売るものがなくなっちゃうんですよ。1999年とか2000年の米なんてまぜたら臭いますよ〜」

「あとね、これが落とし穴なんですよ……」
と、店主が指差したのが、米袋の裏に書いてある「コシヒカリ100%」という表示。
法律の改正で、米の袋には「どんな米が何%入っているか明示」するのが義務になったのだそうだけど、それが「抜け穴」になってしまっている、というのだから驚いた。
「何%って書かないと売っちゃいけないっていうんだから、一見厳しい法律と思うでしょ? でもね、例えば全体の51%がコシヒカリだったら、あとの49%何が入ってても“コシヒカリ”ってでかでかと印刷した袋使ってもいいんです」
それこそ、来年の梅雨時になったら「コシヒカリ」とか「あきたこまち」と袋に書いてあっても、中身はどうなっているかわからないし、しかもそれは合法だ(品質表示の小さい文字もチェックしないと……ってことになる)。じゃあ例えば、新米と古米のコシヒカリを混ぜたときの表示はどうなるんだ? ……っていうのが気になったんだけど、うっかり聞くのを忘れてしまった。

「前の騒動の時にタイ米が輸入されたけど、一番いいものは入ってこなかった、っていうのはどうして?」
「役人が考えることは全部一緒なんですよ。いいものはね、自分のとこで食べるんです。北朝鮮に送るとか送らないとかいってるやつは、97年とか98年ってやつですからね。役人の考えることはどこでも一緒なんですよ」

これには異論もある。米騒動当時、タイ政府関係者は「日本から緊急輸入の打診があったとき、求められたのは加工用の米だった」と証言していたことがある。「外米はマズイ」というイメージ操作のため、再高級品の「香り米」は輸入されなかった、という見方もあるようだ。
以前一緒に働いていたことのあるガーナ人のコックさんが、「もっとおいしいお米がある」と言っていたので、それ以来ちょっとした憧れになっていた。
彼女におそわった長粒種のお米の炊き方は、鍋でパスタのようにぐらぐら茹でる、というものだった。
アルデンテに茹だったら、お湯を全部捨てて、鍋にふたをしてしばらく蒸す(そのときにバターをサクっと入れたりもしていた)。
彼女の作ってくれた炊きたてのご飯で食べたカレーライスは本当においしかった。

さて、話は戻って平成米騒動当時のエピソード。

「スーパーとかに米がなくなったでしょ、そしたら普段そういうとこで買ってる人たちがあわててウチとかに来るんですよ。どうにかしてやろうとおもって、銀行から借金までして宮城とかに買い付けに行ったんです。
普段は東京になんか出してないような豪農のところにいって特別にわけてもらってね、新米がある程度手に入ったもんだから、それはみなさんよろこんでくれましたよ。「今年も新米が入ったらよろしくね!」みたいに……それがね、秋になって入荷してきたら、たった3人しか来やしない!!
だからね、今年はもうそういう人にはブレンド米でガマンしてもらうんです。普段から買ってもらってるウチのお客さんには、ある限りは新米出しますよ。だから、今月来月は平気ですけどね、5月くらいになったら電話してみてください。そのころになったら店には並べられないかもしれないから」

……というわけで、少なくとも東京に関して言えば「米がない!」っていう状況はもうそこまで来ている、なんてことみたいです。
外食産業の牛肉確保どころじゃなく、我が家の米の確保が食料安全保障のテーマになっちゃうかも、なんてギリギリのところまで来てるわけです。
生産地はまだずいぶん違うだろうから……東北とかに実家のある人がうらやましいなぁ。