イノセンスな視点

仕事場に上海から来ている留学生がいる。
語学学校に通っている支那人というと、不穏当なイメージもあったりするけれど、彼女は日本の大学に進学を希望している真っ当な学生だ。

日本人家庭にホームステイをしていたこともあったので、日本語の日常会話はほとんど困らない(細かい話は英語でした方が通りが良かったりはするにしても)。
映画のタイトルや、漢詩の原語(「覇王別姫」「春眠不暁覚」……)、簡単な単語や会話表現(「焼麺」、「無問題」……)の読み方や発音を教えてもらうのはとても楽しい。

その分、というわけでもないけれど、彼女からは日本語文法の質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
不思議というかなんというか、日常会話は細かい話になると通じないのに、こと文法の話をしている限り、品詞の名前だとか活用形の話はほとんど通じる。「述語の省略」とか、「動詞の活用形」、なんて文法用語は、問題なく理解してもらえるからちょっと奇妙な気がするくらいだ。

「日本人はどうして文法の話をするのが得意ではありませんか?」
なんて聞かれると耳が痛い。
国文法の勉強なんて、ほとんどしていない日本人の方が多い、っていうのは確かに妙なことだ(そして、この話を彼女にしたら心底あきれられた)。
でも、だからといって、ひょっとすると文法を一番勉強しているのは中学受験をする小学生、っていう現状も、それはそれで奇形だとも思う。
学校でロクに文法も教えないで「日本語の乱れ」だのなんだの言ってるのは、チャンチャラおかしいことだと思うんだけどなあ。

「日本人はどうして金曜日の夜に家に帰りませんか? 上海では週末は家族と一緒にテレビを見たり、食事をするの日です」
「女の人の方が煙草を吸うの人が多いですはどうしてですか?」
……彼女の指摘や質問は、耳にイタイことがほんとに多い。