中学生セックス禁止令?

一部マスコミでは「慎太郎セックス禁止令発動へ」なんてイケイケの見出しもあったけれど、実際の所はこんな調子らしい。

東京都の「青少年の性行動について考える委員会」(座長・加藤諦三早大教授)の初会合が22日、都庁で開かれ、中学卒業まではセックスをしないよう都条例で規制すべきだとの意見が委員の1人から出された。 都庁内には、中学生以下が安易な性行動をしないよう保護者に努力義務を課すべきだとの意見もある。委員会は性感染症や「望まない妊娠」から青少年を守るため、年内をめどに対策を提言する予定で、規制の是非が焦点の一つになる。 冒頭、都青少年総合対策推進本部長の竹花豊副知事は「この10年で中高生の性交経験率が急増、人工妊娠中絶などの問題が看過できなくなった。大人社会の真剣な取り組みが必要だ」と述べた。─共同通信


法律には必ず「法益」というものがある。何かを規制したり、あるいは保護することで「公共の福祉」にとっての利益になること、プラスになること、という概念だ。
じゃあこのマッチョな規制の法益はどこにあるのか? その委員会で話し合われている内容は「性感染症や『望まない妊娠』から青少年を守る」ことだそうだから、その方法論の一つがセックスを法規制するという大ナタだったんだろう。でも、これって一見マッチョなようでいて、どこかバカバカしく思えてしまうのがなんともおかしい。

副知事コメントでは「この10年で中高生の性交経験率が急増」なんて言っているけれど、その根拠になるデータってどう集めてると思います?
ギャル雑誌の読者データベースを利用してアンケートとってるんです……というのはウソ。

教育現場、つまり学校で生徒に無記入のアンケートを書かせるんです。あと、教育分野の出版物を多く出している大手出版社が性教育関係の財団法人を運営していて、そこも定期的に児童生徒の性動向の調査をやってまとめてる、なんて例もあるんだけど。
いくら無記名でも内容が内容、しかも記述式のアンケート。子供たちが正直に答えると思います?

実際に回答させられた生徒に聞いた話では、正直に答えてるのは「ペッティングって何?」とか「オーラルセックスって何?」と質問ちゃんになってるような子供たちだけだったとか。
その話を教えてくれた女の子も、ウソばっかり書いたと言ってたから、その厚生労働省のアンケートでは少なくとも処女が一人少ない結果になっていたはず。

そんなふうに、彼等の懸念してるデータの精度には疑問があるし、そもそもその懸念の対象になっている数字そのものが過小かもしれないという妙な構造ってことにもなってしまう。




ちょっと検索してみたら、「地ならし」のための報道ソースがあった。

人工妊娠中絶や性感染症の低年齢化に歯止めをかけるため、中学生以下の性行為を条例で抑止できないか−−。そんな意見が東京都庁内で出ている。「保護者らは安易な性行動をさせないよう努めなければならない」といった罰則のない規定を都青少年健全育成条例に設ける構想。 だが、庁内には「プライバシーにかかわる問題を規制することになる」「そこまで踏み込んでいいのか」と異論もある。都は中学教師らでつくる「青少年の性行動について考える委員会」を22日に設置、議論してもらう方針だ。 都内の教師らが2002年に実施した調査では、中学3年の性交経験率は男子6.8%、女子8.7%。1999年の調査より男子は1.5ポイント、女子は5.4ポイント増えた。─9月21日・共同通信


女子が一割以下というのは、どうにも前述のような流れでだろう、って気もする。でなければ僕が現場で接していた中学生たちは史上最悪のニンフォマニア、なんてことになる。
そして男子の数字は……主観的には、まあ男って悲しい生き物だなあ、なんてところ。

ともあれ、セックスを規制しろというのは、あくまでも委員の意見の一人であって、総体としてそういった流れになっているとも思いにくいけれど、その狙う法益はともかく、方法論としては大きく間違っているというか、あまりにも現実を捉えていないと思う。

だって、実際に小中学生はどんどんセックスをするようになってるし、そういった現状に必要なのは性病予防や避妊というプラクティカルなことについての教育であって、とにかく逮捕しちゃえばいい、という問題じゃないはずだ。

しかし、そんなことを官僚たちがわからないわけがない。
そこで、本当に考えている法益は別の所にあるんじゃないか? なんて推理も出てくる。

そもそも、バリバリの警察キャリアでいわゆる歌舞伎町「クリーン作戦」のために広島県警からヘッドハンティングされてきた竹花副知事が青少年総合対策推進本部長だ、という時点で、そこでいう「対策」が「青少年保護」が眼目ではなく、裏社会の重要資金源であるセックス産業へのプレッシャーにあるんじゃないか?
今回の「セックス禁止令」についても、性産業の草刈り場になっている「女子中高生」に対する行動規制をすることで、外堀を埋めよう、少なくともそういう意思表示のためのデモンストレーションをしよう、なんて意図があるかもしれない。

高校生以下と言えないのは、何しろ女性なら高一から結婚できる民法の存在をないがしろにできないこともあるだろうし、例えば渋谷のセンター街を制服で闊歩している子供たちの中心層はとっくの昔に中学生になっている、って現実問題への対処なのかもしれない。
かといって、「援助交際」とかブルセラ通い、ましてや風俗でバイトする中高生なんていうのはほんの一握り。真っ当な学校に行っている子なら、そうそうそんなことには手を出さない。そういう意味では、行政は根本的な対策をとろうとはしていないのかもしれない。売春をする個人よりも、いわゆる「底辺校」が総体として供給元になっているという構造的な問題は放置されているように見える。


一方、遊んでいるのは「いい学校」に通っている子の方が多い、というのも一面の事実だとは思う。
やっぱり遊ぶにしてもエッチするにしても、頭のいい子の方が抜け目ないってことなんだろう。援助交際? ナンパ? そんなリスキーなことなんてしないしない。彼氏なり「安全な」大人ときっちりしちゃってるんだから。

学習塾という職場で目の当たりにして驚いたけれど、中学生とつきあってるというか、ヤッちゃってる講師は普通にいる。そして、中には小学生を相手にしている講師だっている。さすがに現役小学生とっていうのは少なかったにしても、「卒業」ってタイミングが危険なんだよね。
セクシャルな女の子は、能力別クラスの上の方に多かったし、地方よりは都心の方に多かった。
電車に一時間以上乗って郊外の代講に出かけたとき、女の子たちが眉毛も鼻の下の産毛も剃ってないのを見てなんだかホッとしたこともある。
……そんなヘタレ加減なんだから、僕は生徒とどうこうっていうのはなかったけどね。

でも、ちょっとした思い出の一つくらいはある。
「合格したらぁー、マークシティのでいいから美登利寿司に連れてって! そのあとマルキューとかぁー」
そりゃあうれしくないわけじゃない。金づるに対してだろうがなんだろうが、女って生き物が決してムダなコストを使わないことくらいは百も承知。
でもね……いくらなんでもそんな「小学生」は嫌だ。

とまあ、そんな「あぶない」職場だったけれど、とりあえず「性病」も「妊娠」もなかった。
今回の「規制」ってやっぱり「目的」をごまかしてるんじゃないか? そのへんからもそう思う。上手にヤッてる大人たち。子供たちを、一々探して捕まえるヒマはないだろう。
「悪者」を捕まえるために、「頭の悪い大人(客)」をエサにしてきたけれど、今度は本格的に「頭の悪い子供(にくたいろーどーしゃ)」もエサに使えます、なんてことじゃないのか?
だとしたら、そんな暗黒社会もないのだけれど。

「ヤッちゃってる講師は普通にいる」とは書いたけれど、だからといって誰でも、というわけでもない。

村上春樹は大学生の頃のセックスを「山火事のように無料だった」と登場人物に語らせたことがあるけれど、この図式を借りると「ドライブスルーで入るファーストフードくらいには有料」なんてとこだろうか。