「ペイチェック」★3/5

なるべく情報誌の映画コーナーは見ないようにしている。「上映中の作品」なんてところは必要に迫られて見ることがあるけれど、近日公開の作品の特集記事は特に気をつける。女性誌の映画コーナーなんて絶対に読まない。
というのは、「シュリ」と「パニック・ルーム」でイタイ目を見てしまったからなんだけど。
「恋人が○○○の○○○だったという衝撃の結末」とか「強盗の中にパニック・ルームの○○○が加わっていたことから」なんてとこまで書いてあって、すっかり見る気を無くしてしまった(見た人なら大体穴うめできるよね?)。 
ところが、広告代理店の人に言わせると、「情報誌や女性誌の読者は、映画のストーリーの大半をわかりやすく紹介しておかないと、記事に目を止めてももらえない」なんてことになってしまう。これはテレビの情報番組や、よくある前宣伝番組(近日公開!「○○○」のすべて!!……みたいなやつ)でも同じことのようだ。

半落ち」の前宣伝番組もひどかった。
「妻の衝撃の告白。『私に○○の○○があるうちに、○してください』」
……あのー、これって主人公が自白しようとしなかった「残り半分」のことなんじゃないでしょうか?
原作とか映画のストーリー知ってる方、教えてください。


ところが……「ペイチェック」、なかなか硬派!

試写会場に入るとすぐ、チラシと一緒に白い紙に印刷された“お手紙”をわたされた。

「試写会にご来場いただきました皆様へのお願い」(抜粋)
ご観賞後にお友達などにストーリーをお話頂く際には、この用紙と一緒にお配りしましたチラシの説明程度に止めていただけますようお願い申し上げる次第です。これは、今後ご覧頂くお客様方がストーリーの細かな内容やクライマックス、さらに劇中でのアイテムの使い方などのネタを事前に知ってしまうことで、この映画の面白みが半減してしまうことを避けるためです。

そうか……「ターミネーター2」じゃないけど、しゃべってほしくない仕掛けがあるんだなあ。UIP(配給会社)に敬意を表して、コメントはせめて公開後にまたあらてめて、ってことにしておこう。

だから、誰かに「鳩は?」とか「教会は?」みたいな質問をされてもナイショナイショ。

会場の九段会館の大ホールは、かなりひどかったです。
古くて雰囲気があるのはいいんだけど、シートは小さくて座り心地が悪いし(科学技術館サイエンスホールや千代田区公会堂よりはマシだったけど)、傾斜がゆるくて前の席の人の頭が思いっきりジャマ。
それよりもなによりも、スピーカーは貧弱なのがスクリーン横の左右にあるだけで、音響をどうこう言う以前の問題。
選べるならもう行きたくないけど、試写会だからガマンガマン。

それにしても、試写会だっていうのにポスター一枚はってない。UIPもこういうところには全然やる気が無いんだなあ。
試写会にはずいぶん行ってるけど、ここまで素っ気無かった映画は……あ、「模倣犯」がそうだった。
あっちはチラシすら配られなかったし予告編も無し。で、出来がアレだから……よみうりホールから階段を歩いて降りる間、同行者とずっとブツブツ言ってました。まそれもこれも、ビル出て三歩で忘れたけど。


いろいろと反芻しながらの帰り道。あらためてチラシを読むわけです。

書いてある情報で内容に関することはというと、タイトルの「ペイチェック 消された記憶」の他に

「記憶を売った報酬(ルビは「19個のガラクタ」)。すべての鍵はここにある」
「近未来 大企業 多額の報酬 消される記憶 そして19のガラクタ」

あとはベン・アフレックアーロン・エッカートユマ・サーマンの名前と写真くらい。写真がまん中に載ってるベン・アフレックが主人公なんだろうけど、誰が善人で悪人なんだかまるでわからない。
そもそも、ペイチェックって言葉自体、高校生クラスの英和辞典には載ってなかったりする。そうなると日本人の大半にはタイトルだってちょっとしたナゾになっちゃう。

でも……URLが載ってるんですね。
どうもそのへんから、なんだかイヤな予感が漂ってくるわけです……でもやっぱり見ちゃうわけですが。

なんじゃこりゃあっっっ!!!

○○そのままのせるなよ! ユマ・サーマンは○○で○○とか書くなっ! 「ガラクタ」のリストのせるなっ!(本編中でも何と何で19個かわかんないようにしてただろっ!)

ちくしょーっヤラれたっ! っていうか、あんな仰々しい「お願い」とはまるで矛盾してるのはどうしてなんだろう。結局は「全米何州で上映禁止」みたいなこけおどしだったんだろうか。

でも……面白かったですよ、この映画。
そして、情報遮断して見に行った方がぜったいに楽しめます。公式サイトのあらすじに書いてある主人公の職業なんかも、知らない方がオープニングのエピソードでもドキドキできると思う。
キャストでもスタッフでも原作者でも、ちょっとでも何かひっかかるところのある人は、予備知識なしで映画館に行けば、フツーに楽しめるんじゃないだろうか。ただ、SFや謎解きの要素よりは、シンプルなアクション(っていうかジョン・ウー節)の要素が勝ってることだけは書いておくけど。

ディックの原作は多分★5級の面白さ。ジョン・ウーが自分の作品世界をバシバシやっちゃってるところも★4〜5ってところです。
だけど……このストーリーならもっと他の監督の方がよかったかなあ。
素材そのものにミステリー、スリラーの要素がタップリあるのに、そのへんをバッサリやってるのは残念。で、★は3つ。
ジョン・ウーは、戦場(「ウインドトーカーズ」)よりは近未来の方が居心地よさそうだったけど、やっぱりちょっと違うかな?
フツーのオッサンたちをカッコよく描いてくれたことが「男たちの挽歌」のカッコよさのわけで、最初っからカッコいいベン・アフレックにあんなことやこんなことをさせても……って限界は確かにありました。