「パニックルーム」★2

「デヴィド・フィンチャーだったの?」と、まず驚いた。今までは強烈な演出に何度もノックアウトされてしまったけれど、この映画にはそういう直球のドギツサは見つけにくい。演出手法が洗練されたとは言えるにしても、これって一応スリラーなわけで……。

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やっと見ることができたこの作品なのだけれど、それにはこんな事情もあった。


公開当時、たまたま手にとった女性誌の映画新作情報。
強盗の中にパニック・ルームの設計者が加わっていたことから(ネタバレにつき白字表記。カーソルで選択反転で判読可能・以下同)」

これじゃあまず「強盗が入る」「一味の一人はパニック・ルームの設計者」という序盤の展開のドキドキが大幅に薄れてしまうことにはならないだろうか。
どこで何が出てくるかわかっているお化け屋敷(スリラー映画)に入るためには、よほどの思い入れでもないと……と、公開当時から二年、なんとなく未見のままだった。


「シュリ」のときにも同じようなことがあった。これも封切り公開当時、情報誌にクライマックスのネタバレ「最愛の恋人が北朝鮮情報部員だった」が書いてあったことから、しばらく未見。

シュリ [DVD]


広告代理店の人に言わせると
「そのくらい内容に突っ込んで書いておかないと、読者の関心をひけない」
ということらしい。

どうせ映画を見るのなら、目一杯ハラハラ、ドキドキさせてほしいし、たくさんたくさん、もっともっと驚かせてもらいたい……なんて考えている僕は少数派のようだ。
「お客さんは、物語の盛り上がりやポイントをある程度見せておかないと、わざわざ映画館に足を運ぼうだなんて思わない(前述・代理店氏)」

テレビでのCMや前宣伝番組、チラシなどで再三見られるネタバレには、そうやって映画会社や代理店が何もかもわかった上でやっているというから、あきれてしまう

見くびる方が悪いのか、見くびられる方が悪いのか……。

パニック・ルーム [DVD]


※以下は本作と「裏窓」のネタバレを含みます

裏窓 [DVD]


見るものを不安にさせるカメラワークや、よくわからない伏線といった、独特の「フィンチャー節」は順調にパワーアップしていたと思う。
でも、スリラーなのにこのビックリやドキドキの少なさは期待はずれ。
フィンチャー的ショック! なんて要素が少なくなっていては、どれだけきれいな絵作りを見せてもらったところで評価しづらい。

「裏窓(ヒッチコック)」的密室劇の翻案という挑戦だったとしたら、詰めを欠くというよりは、脚本段階で既にいくつもボロが出ていたんじゃないか? そんな気さえする(特に「すてきな三にんぐみ」のキャラ立てや会話のやり取りは、一人が殺されるまでは終始コメディーに見えてしまうくらいだった)

ヒッチコックその人や、その演出手法に対するオマージュやリスペクト(あるいは挑戦?)だったのかもしれないにしても、淡々としたヒッチコック節の方が「背筋に冷たい物が……」といったスリラー的要素ではどうしても上に思えてくる。
例えば、ガスを注入されたり、ハンマーで殴り殺されそうになるそのときよりも、突然犯人その人から電話がかかってきたときのドキッ!(「裏窓」) の方が、はるかにスリラー的恐怖としては大きかった(余談だけれど、ああいうボンベに入っているのはLPガスでは? だとしたら……空気より重くて床にたまるはずなんだけど)

そうやって要素を一つ一つ考えてみると、フィンチャー的「直球」はまだまだ健在で、そして今回はそれが上滑りしたのかな、という部分もあったような気がする。

「セブン」と「ゲーム」では、とにかくイヤな気分にさせられてしまったように、人間の神経を過剰に逆なでするラジカルな演出術が彼の持ち味だとしたら、やっぱりこの作品は「物足りない」

でも……フィンチャーだって知ってたら最初から見なかっただろうけど(その二作品にノックアウトされたときに「フィンチャーは上手い! でももう見ない!!」なんて思ったので)